MBTI診断は、今やどこにでもあります。16タイプのどれかを教えてくれるあれです。ただ、世に出回っている診断のほぼ全部に共通する弱点があります。自己申告であること——「あなたは計画的ですか?」みたいな質問に、自分で答える方式です。
自己申告には限界があります。人は自分を、なりたい自分の方向に少し盛ります。無意識にです。「計画的でありたい」と思っている人は、実際は行き当たりばったりでも「まあ計画的な方かな」に丸をつけがちです。診断結果は、行動ではなく願望を映してしまう。
私はClaude Codeに数ヶ月分の作業記録を読ませる長期記憶の運用をしています(前回の記事で書いた仕組みです)。だったら、質問に答えるのではなく、実際にやってきたことから診断させられるはず。そう思って試したら、自己申告版と1文字だけズレた結果が返ってきて、その「ズレた理由」がいちばん面白かった。この記事はその実録です。
「行動ベース診断」とは何か
やったことはシンプルです。AIに、質問には答えさせません。代わりに、過去数ヶ月の実際の記録を渡します。
- 毎日どのプロジェクトに、どういう順番で手をつけたか
- 何かを決めるとき、どういう理由で決めたか(記録に残っている)
- どこで詰まって、どこでイライラして、どこで方針を変えたか
- 作ったもの、書いた文章、途中でやめたこと
そのうえで「この人物を、行動の証拠を挙げながらMBTIで診断して」と頼む。ポイントは証拠を挙げさせることです。「あなたはIです」ではなく「深夜に一人で没頭している記録が多い、人を雇わず仕組みで解決している→I」というふうに、判定と根拠をセットで出させる。
これは自己申告と決定的に違います。質問に答える診断は「自分がどう思っているか」を測る。行動ベースは「実際に何をしたか」を測る。盛れないのは後者です。願望は書けても、数ヶ月分の行動の履歴は書き換えられません。
結果:自己申告と、行動ベースが割れた
面白かったのはここからです。
私は以前、同じAIに一度診断させたことがありました。そのときの材料は、主に数字にシビアな検証系プロジェクトの記録でした。結果は、思考型の論理学者タイプ。「悲惨な結果でも受け入れます、と自分から言う」「自説が数字に否定されたら執着しない」——たしかにその文脈の私は、そう動いていました。
今回、材料を全事業・全期間に広げて、もう一度やらせた。すると、4文字のうち1文字が変わりました。変わったのは「思考(T)か感情(F)か」の軸。今度は感情型に寄ったのです。
最初は「AIが間違えたのかな」と思いました。でも、根拠を読んで納得しました。ズレは誤りではなく、文脈の違いだったんです。
| サンプルした記録 | 出てきた顔 |
|—|—|
| 検証・数字にシビアな仕事の記録 | 論理で動く「思考型」 |
| 創作・キャラ制作・人との関わりの記録 | 価値観で動く「感情型」 |
同じ人間でも、どの行動を見せるかで診断が変わる。仕事モードの私を見れば思考型、創作モードの私を見れば感情型。自己申告の診断では、この「文脈で顔が変わる」現象は絶対に見えません。質問に答える自分は、いつも一人だからです。
決め手になった問い:「その規律は生まれつきか、建てたものか」
では、統合したら結局どっちなの——という話になります。ここでAIが出した判断の切り口が、自分でも唸るほど鋭かった。
「その分析的な規律は、native(生まれつき)か、後から建てたものか」
私は仕事の場面では、かなり厳格な検証規律で動きます。「きれいすぎる結果は疑う」「自分の宿題を自分で採点しない」。一見、これは思考型の証拠に見える。でもAIはこう指摘しました——
> あなたは、その規律を守るために外側に仕組みを建てている。厳しくチェックする役のAIを置き、ゲートを作り、ルールを文書化した。もし論理的な厳密さが生まれつきなら、外に品質管理部門を建てる必要はない。建てたということは、それが native ではない証拠だ。あなたの自然な流れは「アイデアを生む・意味あるものを作る・人と価値で決める」の方にある。
これは効きました。自分が何を”苦手だから仕組みで補っているか”は、行動の履歴にしか出ない。「私は計画的です」と答える自己申告では、”計画的になるために大量の仕組みを建てないと保てない人”だという事実は、むしろ隠れてしまう。行動ベースは、その補強材(外骨格)まで見える。
結論として出たのは「創作と価値観が核にある人が、検証のための思考の外骨格を自分で鍛造した、めずらしく強い型」。自己申告の一発目より、こっちの方がずっと腑に落ちました。
記録運用ならではの「静かな落とし穴」
便利な話だけ書くと嘘になるので、この方法の弱点も書きます。ここは実際にやらないと気づけない部分です。
落とし穴①:AIは「見せた記録」に過剰適合する。 さっきの表がそのまま弱点です。検証系の記録だけ渡せば思考型、創作系だけ渡せば感情型と、AIは食わせた断面をそのまま鏡に返す。つまり「診断結果」は、実はあなたがどの記録を選んで見せたかの反映でもある。これは限界であると同時に、いちばんの発見でした——“あなたのタイプ”は文脈で揺れる。AIはそれを可視化しただけ。
落とし穴②:MBTIはそもそも科学ではない。 心理測定として厳密に検証された分類ではありません。当たっている感じがするのは、記述が誰にでも当てはまるように書けるから、という側面もあります。だから私は、これを「自己理解のための言語」として遊んでいます。診断結果を事実の顔で語らせない——ここは、検証がシビアな仕事で身につけた「未確認を断言しない」癖がそのまま効きました。
落とし穴③:褒めに寄る。 AIは放っておくと、耳あたりのいい方向に診断を寄せます。「あなたは素晴らしい直観の持ち主で……」みたいに。これを避けるには、必ず行動の証拠を要求する。「その判定の根拠になった具体的な行動を挙げて」と縛ると、盛りが減って、弱点や矛盾もちゃんと出てきます。
3つに共通するのは、行動ベースは自己申告より深く見えるが、”何を見せたか”と”何を要求したか”に結果が強く依存するということ。鏡は正直ですが、どの角度から覗くかは自分が決めている。そこを自覚して使うと、ただの性格クイズより一段深い自己理解の道具になります。
自分でやってみるには
特別なものは要りません。必要なのは質問への答えではなく、行動の記録です。
1. 材料を集める:日記、作業ログ、チャット履歴、SNSの投稿——「自分が実際に何をしたか」が残っているものなら何でも。多いほどいい。
2. 証拠つきで診断させる:「この記録の人物を、行動の根拠を挙げながらMBTIで診断して」と頼む。判定だけでなく根拠を必ずセットで。
3. わざと断面を変えて2回やる:仕事の記録だけ、次に私生活・趣味の記録だけ、と分けて診断させる。割れたらそこが面白いデータ。あなたのどのモードが、どのタイプに見えているかが分かる。
4. 遊びとして受け取る:当たった外れたで一喜一憂せず、「AIが可視化した自分の傾向」を眺める。それだけで、自分の”補強材”や”文脈で変わる顔”に気づけます。
まとめ
- 世のMBTI診断はほぼ自己申告(=願望が混じる)。長期記憶の運用があれば、行動の記録から診断させられる
- 行動ベースは盛れない。ただし見せた断面に過剰適合する——検証の記録は思考型、創作の記録は感情型、と割れた
- 割れは誤りではなく文脈。決め手は「その規律は生まれつきか、建てたものか」。自分が何を苦手で仕組みで補っているかは、行動履歴にしか出ない
- 落とし穴は3つ:見せた記録への過剰適合/MBTIは科学ではない/放っておくと褒めに寄る。根拠を必ず要求すると締まる
- 遊びとして、でも自己申告より一段深い鏡として使える
性格診断は星の数ほどありますが、そのほとんどは「あなたがどう思っているか」を聞いてきます。手元に行動の記録が貯まっているなら、「あなたが実際に何をしたか」から診てもらう手が使える。1文字ズレたその理由を読むのが、いちばん面白い自己理解でした。
この記事を書いた人 / 作っているもの
AIキャラ制作とClaude Code自動化を、実際に毎日運用しながらその実録をこのブログに書いています。記事で触れている「AIに長期記憶を持たせる」仕組みは、まとめて手に取れる形にしました。
- AIチーム設計図キット — Claude Codeで9人体制のAIチームを組むための設計図一式
- 📖 note版(読み物・図解つき): https://note.com/kumura_ailab/n/n6161c3e2cda8
- 📦 BOOTH版(実ファイル一式・zip): https://kumura-ailab.booth.pm/items/8643701
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